『田園の詩』NO.100 「ビワに満足」(1999.7.13)


 時折、買い物や会合などで山を下って町に出るのですが、この時期、一番目に付くのが
ビワの木です。屋敷内に植えるのは忌み嫌う人が多いようですが、やはり南国九州は生育
の適地らしく、畑や山の縁に良く繁ったビワの木を沢山見かけます。

 今年は、どれもこれも多くの実を付けており、車で側を通る度に、黄色の濃さが増し熟れ
て行く様子がわかります。次に通りかかると、誰も収穫した様子はなく、木の下には茶色に
変色したビワが沢山散らばっています。

 それを見て女房は、「ワー、もったいない。『ご自由にお取り下さい』という立て札があっ
たら遠慮なく戴くのに…」と車の中でつぶやいています。

 こんな事を先輩の工芸家に話したら、「ワシら、子供の頃には、近所の野郎達と集まって、
『出撃 !』と気勢を上げてはビワを取り回ったもんだ」と得意げに昔のガキ大将ぶりを披露
してくれました。

 その先輩より10数歳若い私の時代でも、『出撃』とは言いませんでしたが、仲間達と同じ
ことをしました。見つかれば時には叱られもしましたが、村の大人達は、子供達のすること
には見て見ぬふりをしてくれました。そんな子供達のいる頃は、ビワが熟れ落ちて腐ること
などありませんでした。

 ところで、他人様のビワを気にしなくても、今年はわが家の木にも多くの実が付きました。
例年なら、子供達の出撃ならぬカラスの出撃でアッという間になくなってしまうのに、どう
いう訳か一向にその気配がありません。ついに6月22日、私達の方がカラスより先に
収穫できたのです。

 梅酒を作って間もなくだったので「ビワ酒もできるらしいな」と私がいったら、「こんな美
味しいもん、わざわざ焼酎に漬けることはあらへん、このまま食べるのが一番や」との
女房の答えに皆納得。庭で、ポタポタと滴の落ちるのも気にせず、久しぶりに「腹一杯」
好きなだけ食べることができました。

 田園風景から黄色が消えて、緑一色となりました。


      
       工房から外を見たら、面白い雲が浮かんでいました。
        8月の下旬でも、まだ周囲は緑一色です。  (09.8.25写)

                                (住職・筆工)

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